山口家庭裁判所岩国支部 昭和40年(少)219号 決定 1965年7月05日
少年 M・S(昭二一・一・三〇生)
主文
少年を山口保護観察所の保護観察に付する。
理由
(罪となるべき事実)
少年はA、Bと共謀のうえ、昭和四〇年六月○日午前一時一〇分ころ、柳井市大字○○○×××番地所在の○口相互銀行○井支店へ、強盗の目的で裏出入口の板壁を乗りこえて侵入し、同銀行の当直員、城○彦(二五歳)に発見せられるや、共犯のAは所携の剌身包丁をもつて、同人の左腰背部を剌創し、よつて同人に対して全治約二週間の傷害をあたえたものである。
(適条)
刑法第六〇条、同法第一三〇条、同法第二四〇条
(保護観察に付する理由)
(1) 少年は、前歴としては昭和三七年に当裁判所で、道路交通法違反により審判不開始決定を受けただけであり、いわゆる刑法犯としての非行は本件がはじめてである。しかし、少年の本件は三人組の銀行強盗として、犯行地地方の社会的関心をあつめた重大な事件で、更に共犯者が共に少年であることから、世人の注目の強いものがあつた事件である。
(2) 少年は、昭和三六年三月に中学校を卒業するとただちに広島市内に工員として就職したが、同僚が機械事故をおこしたのを見ておそろしくなり、同所を退職し、同年八月に岩国市内の○重製氷店に働くようになつた。その後、同所も手に職を得たい気持から退職し、昭和三九年三月に同市内の○上タイル店に入つた。しかし、同所においても自動車運転にあたり、急性腸炎をおこすので今年五月ころに、かつて勤めていた○重製氷店に移るためにここをやめ、ぶらぶらしているうちに本件非行をなしたものである。本件の共犯者三人が犯行現場に乗用した自動車も、少年のこのような○重製氷との関係から少年が他の使用目的を製氷店主につけて借用し、運転して行つたものである。
(3) 少年の本件非行の動機は、住居が近くで幼児期よりの友達であつた共犯のAが、就職していた大阪方面より帰り最初は同人から「物を運搬する仕事の仲間に入れ」とさそわれ、手伝う約束をしたところ、あとで強盗の目的をつげられ、ちゆうちよしたが、同Aが更に「いつたん手伝う約束をしたからには手伝え、もし手伝わないならば消すぞ」と恐脅し、反面「仕事をしたら一〇万円やる」といつたので、あえてAの恐脅はことわるにことわりきれないものではなかつたが、恐ろしい一面もあり、金も欲しいので、他に友人のBも一緒であることから、という気持からである。
(4) 少年の性格および行動傾向は、鑑別ならびに調査結果によると、知能は普通級ではあるが、人格全般が幼稚で、自立性に乏しく、気が弱く自信にかけ、周囲の事情や他からの強い言にはおそれて同情する傾向があり、すべて受動的立場で行動する性格である。本件においても、主犯のAに従事して行動したことはこれが少年の性格からして推認できるものである。
(5) 一方、少年の家庭をみるに、少年は祖母との二人暮しで、実母は少年出産後二〇日にして急死しており、実父は少年の実母が少年を胎内に宿した当時実母とは入籍もしていない単なる恋愛関係の間柄であつたことから、同じ岩国市内に居住してはいるが、あまり少年の養育には関与していない。したがつて、少年は家庭的には恵まれていない。しかし、祖母は前記のとおり少年の実母が急死したので、少年を自分の子供として入籍し、戸籍上の母となり、深い愛情のもとに養育し現在に至つている。前記(4)のような少年の性格も、このような少年の生育歴を考察するとき、無関係でないことがうかがわれる。
よつて、少年の家庭における保護能力は十分でない。
(6) しかし他方、少年自身は本件の社会的責任を自覚し、深く反省しており、調査によると、その生活態度も素直でひねくれたところがなく祖母のいうこともよくきき、祖母思いであるうえ、仕事も真面目にやつていたことが認められる。
(7) また、少年のもとの雇主で、本件犯行時少年が勤める予定であつた○重製氷店主も、○上タイル店主も共に少年を受け入れて更生させてやりたいと述べており、少年もこのどちらかに勤めたいと述べているので、この点は恵まれている。
(8) 以上の諸点を総合すると、重大な非行をなした本件少年ではあるが、少年をただちに収容保護したり、あるいは刑事処分に付したりする必要性は認められず、就職先の雇主の理解と、社会的専門家の両親に代る愛情と指導で、悪友との交際を断たせ、自主性の育成をはかることがもつとも適切な措置と判断して、少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 英一法)